2005年 12月

ドラえもん最終話リメイク (連載第49回)                         

 熱めの湯に浸かりながら眼下に広がる渓谷を眺める。辺りの山々は、赤、黄、山吹など、様々に見事なグラデーションを成し、湯気の向こうに幻想的な景色を作り出している。
 そのとき、突風が吹いて辺りの木々の葉を散らした。湯気が吹き飛ばされて一瞬クリアになった視界に、落葉が吹雪のように飛び込んでくる。擦れる枝々の、迫り来る波のような音を聞きながら、のび太としずかはその見事な自然の演出に見入った。

 やがて、一枚の葉が風に流されてやってきて、のび太の目の前にフワリと落ちた。湯の表面に漂うその黄色い葉を摘み上げるのび太。夕日に透かすと、沢山の葉脈が浮かび上がって見える。
 のび太はハッとして、その葉脈をまじまじと凝視した。『ドラえもんの耳は通常の人工物とは異なり、バイオ技術で生成される…。ならば、その生成過程で、この葉脈のように複雑な配線構造が造り出されているのかもしれない。一本一本の細い配線に、耳のバックアップバッテリーから分岐した電極が、異なる電位で割り振られているとすると…。しかし、その割り振り方の法則はどうなっているのか?フラクタル理論を応用して解析できないだろうか…?』
 「のび太さん、大丈夫?」
指に摘んだ一枚の葉を見つめたまま動かなくなったのび太に、しずかが声を掛けた。
「ねえ、のび太さん」
しずかに肩をつつかれて、のび太はようやく我に返った。
「あ、しずかちゃん。なんだか、僕、凄く良いアイデアを思いついたかもしれない」
のび太の言葉を聞いて、しずかはにっこりと微笑んだ。のび太の仕事に対して理解のあるしずかは、こんなときにも「また仕事のこと?」などと言ってのび太を責めるような事は無い。
 その日、のび太としずかは温泉旅館に一泊し、次の日、午前中の早い時間に東京へと戻った。そして、自宅でしずかを降ろすと、朝の通勤渋滞が始まる前に、のび太はそのまま大学へと向かうのだった。

 

12月14日(水) 2005 閃き 


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