昨年6月のWWDC2005にてMacへのIntelプロセッサ採用が発表されてから、早、10ヶ月。AppleがPowerPCを手放すと聞き、RISCプロセッサの(理論上の)優位性やMacのハードウェアとしての独自性、そして恐らくはMacユーザなら誰しも多少は持っていたと思われる、Wintel(WindowsかつIntel)に対するちょっとした優越感(と、我々がそれさえも誇りとしていた(?)、マイノリティゆえの仄かな不便さ)さえも手放すような気がして、一抹の寂しさを感じた方も多いのではないだろうか。
と、同時に、恐らく多くの人がIntel Macに期待したのは、やはりWindowsとのデュアルブートの可能性だろう。デザイン系の仕事をしている人でもない限り、データ互換性や使用するソフトウェア等の関係で、仕事ではWindowsを使わざるを得ない場合も多いと思われる。実際、我々Mac好きの多くは、仕事でWindowsを使っているか、仕事用としてWindowsマシンを持っている。
しかし、Intel MacがWinとのデュアルブートを可能とするなら(そして、Intel Mac上でのWinの動作が完全であるならば)、我々は大好きなMacのハードウェアだけで全てを賄えるようになるんである。
で、世界中のMac好きが考える事は同じというか、Intel Mac発表後にはAppleアウトサイダーによる「Windows XP on an Intel Mac」プロジェクトが発足、'06年3月中旬、みごとにその目的を達成したのだった。(詳しくは、無茶庵(BBS)の書き込みNo.682をご参照ください。Yokohamacさん、情報ありがとうございます)
しかも、その直後に今度はApple自らが、Intel Mac上でWindwsを動作させるためのソフトウェア、Boot Camp(パブリックベータ版)をリリースし、Macのハードウェアによる、Windows XP及びMac OS Xのデュアルブートを、Apple純正のソフトウェアによって可能たらしめたのだ。因みに現在のバージョンのBoot Campは期間限定の試用版で、正式バージョンは次期OS X v.10.5 "Leopard"の一機能として提供される予定。
さて、そうとなったら気になるのは、実際にIntel Mac上でWindowsを動作させた時にどうなのか、という事である。不具合は出ないのか?、アプリや周辺機器はきちんと動作するのか?、動作速度はどうか…?
で、ネット上を調べてみたが、まだWindows XP via Boot Camp使用者の絶対数が少ないので当然、と言おうか、Intel MacでのWindows XP動作の不具合の報告は(今のところは)無いようだ。
ただ、ベンチマークの結果は悪くない。Boot Camp経由でのWindows XP on Intel Mac対、Mac OS X Tiger on Intel Macにおける、Cinebench 9.5の結果では、トータルスコアで2割近くもWindows XP on Intel Macの方が勝っている。
さらに、Adobe Photoshop CSを使ったテストでは2.3倍もWindows on Macの方が速い。だが、これはPhotoshop CSがOS X on Intel Mac上でネイティブ動作するバージョンを持たず、OS X on Intel MacではRosettaによるエミュ動作となってしまっているためだ。Mac World San Francisco 2006におけるジョブズによる基調講演での、Intel Mac上で動くPhotoshopの遅さは記憶に新しい。
実際のところは使ってみないと何とも言えないが、Boot Campは良さげな感じである。ところで、Intel MacでWindowsを走らせた場合、キーボード上のキーの割り当てはどうなるのだろうか。例えば、私は、Microsoftが配布するOS X用のリモートデスクトップを使ってMacからWindows機を操作するときに、右クリックのアクションが未だに分からない。
Macのキーボード上で、controlを押しながらマウスをクリックしようが、Apple commandを押しながらクリックしようが、もちろんoptionキーやshiftキーを使っても、右クリック動作にならない。Windows on Intel Macにおいても、もし、あまり特殊なキー割り当てになっているとしたら、少し面倒くさい。
ところで、Boot CampをリリースしたAppleの意図はどこにあるのだろうか。
CNET News.comのCharles Cooper氏は、「Appleの目的は、今までWindowsしか知らなかったユーザに、とにかくMacを触らせる事にある。興味のある人にMac OSを一目見てもらい、その魅力で彼らをとりこにしたいと考えているのだ」と述べている。確かに、ある意味そういった「スイッチキャンペーン」的な効果もあるだろう。しかし、私が思うに、Appleの本来の意図は、それとは少し異なっているような気がする。
無茶案(BBS)にも一部書いたが、AppleはWindowsとのデュアルブートによって、単にハードウェアの売り上げが伸びれば良い、というスタンスなのではないだろうか。コンピュータを「事務処理をする道具」とだけ捉えている(恐らく世の中の大多数の)人にとって、アプリケーションまで買い換えてMac OSにスイッチするには費用が掛かりすぎるし、他人とのデータのやりとりにおいてもXPの方が無難だからだ。
一方、Intel iBook (MacBook)が現行iBookの価格帯を踏襲するならば、MacBookはお洒落で安価。Windows XPを単体で購入する必要はあるが、それを考慮しても一般のユーザ(の一部)を取り込むのに十分な魅力を備えているとは言えないだろうか。そして、MacBook ProやIntel iMac、Intel Mac miniと多彩なラインナップはWindowsブートと相俟って、Macのハードウェアとしてのシェアを広げる事だろう。
ところで、Boot Campのdmgファイル、Boot_Camp_Assistant-Installer_Beta.dmgをダブルクリックすると、Boot Camp Assistantがデスクトップにマウントされる。そして、その中にインストールガイド等の2つの説明ファイルと共に、インストーラー(BootCampAssistant.pkg)が入っているのだが、では、この中身はどうなっているのだろうか。
一瞬、ほんの一瞬だけだが、中身は例の「Windows XP on an Intel Mac」プロジェクトによるWindows XP on the Intel Mac version 0.1なんではないか、という考えが脳裏をよぎったのだ。
そこで、BootCampAssistant.pkgをターミナルを使って覗いてみた。すると、中にはContentsというフォルダがあり、さらにその中にArchive.pax.gz、Resources、BootCampAssistant.dist、version.plist、Archive.bom、Info.plistが入っている。あー、やっぱり全然違う。(そりゃそうだ)
大体、サイズからして全く違っている。Windows XP on the Intel Mac version 0.1は全体で3.3MBしかないが、BootCampAssistant.pkgは単体で80.4MBもある。
さて、このBoot Camp、個人的にかなり興味をそそられる。PowerPCユーザとして、Leopardの購入は見送るつもりだったし、Intel Macの購入は時期尚早と感じているのだが…。ちょっと心揺さぶられる今日この頃、なんである。
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