2013年 4月

ドラえもん最終話リメイク (連載第50回)                         

 初夏のある晴れた日。外の強い光を、濃い緑の木々が反射して室内を照らしている。壁に掛かった時計の針は午前11時の位置を少し回ったところだ。
しずかがリビングで掃除機を掛けていると、部屋の入り口に人の気配を感じて顔を上げた。
「のび太さん、もう、驚かさないで!びっくりするじゃないの」
しずかは掃除機のスイッチを切って、開けたままになっているリビングのドアに軽くもたれながら、微笑を浮かべて立っているのび太に声を掛けた。
「ごめん、しずかちゃん。一生懸命やってるから、なんか声を掛けそびれて」
「それは良いけど、のび太さん、どうしたの?こんなに早く帰って来るなんて」
のび太はしずかに歩み寄りながら言った。
「ちょっと、しずかちゃんに来て欲しいところがあるんだ」
しずかは訝しがりながらも、のび太の言葉に頷くと、エプロンを外して外出の準備を始めた。
「いったい、どこへ行くつもりなのかしら・・・」
のび太と一緒にしずかも玄関を出、鍵を閉めながらのび太に話し掛けた。
「ねえ、のび太さん、どこへ行くの?」
「うん、僕、しずかちゃんに見せたいものがあるんだ」
のび太としずかは車に乗り込むと、二人の住む、大きな家の建ち並ぶ閑静な住宅街を抜け、大通りへと出た。
のび太は無言で運転をしている。
やがて、大通りから折れると、のび太の所属する大学の構内に入った。
「のび太さん、ここ、大学・・・」
しずかは、何とはなしにのび太が緊張しているのを感じ取って、それ以上は何も訊かず、車を降りるとのび太の後に付いて歩いた。
工学部の建物に入ると階段を上り、暫く廊下を進んで、のび太の研究室の前で止まった。
のび太は鍵を開けて、部屋へ入るようにしずかを促す。二人が研究室に入ると、のび太は入り口の鍵を閉めた。
研究室の中はのび太の机と本棚があるばかりで、大きな窓からはキャンパスに立ち並ぶ銀杏とプラタナスの葉が、ゆっくりと風に揺れているのが見える。
のび太は部屋の奥へと歩を進めると、壁に付いている扉の鍵穴に鍵を差し込んで回した。
カチっと硬質な音が響き、のび太はその扉に付いているドアノブを回して扉を開けた。
中は真っ暗だった。のび太としずかがその扉の中に入ると、のび太は内側の壁にある照明スイッチを押した。
天井の薄暗い照明に照らされて、台のような物の上に何かが乗っている様子が浮かび上がる。
「…ドラちゃん?」
しずかが呟く。
「うん。僕はずっと、僕が子供の頃に故障したドラえもんを修理しようとしてきた。そして今日、ドラえもんの修理が完了したんだ。後は、尻尾のスイッチを押せば、ドラえもんは帰って来る筈だ。僕の親友が帰って来る瞬間に、僕の大切なパートナーであるしずかちゃんにも立ち会って欲しくて、来てもらったんだ」
「のび太さん…。ありがとう」
のび太はしずかの手を取ると、ドラえもんの尻尾のスイッチを入れた。静かな起動音が薄暗い部屋に響いた後、ドラえもんの原子炉は通常運転に入った。
やがて、ドラえもんは目を開けると辺りを見回し、のび太の顔を見ると言った。
「のび太君、宿題は済んだの?」

4月22日(月) 2013 再会 


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